企業による情報発信のツールとして、動画制作が多く行われています。国内向けのみならず、ローカリゼーションのため様々な言語に翻訳されています。
そして、視聴覚的な情報が含まれる動画翻訳には、特有のルールや指針が存在します。今回は、その中の一つである「記号」についてご紹介します。一般社団法人日本翻訳連盟(JTF)による実務翻訳向けのスタイルガイドと、TED Conferences, LLCおよびNetflix, Inc.による日本語字幕翻訳向けのスタイルガイドを比較しました。
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さて、実務翻訳と動画翻訳の記号の使用ルールには、どのような違いがあるのでしょうか?
目次[非表示]
動画翻訳では、句読点の代わりにスペースが使用されます。これは、動画翻訳の基本ルールの一例です。
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JTF (実務翻訳) |
TED (日本語字幕翻訳) |
Netflix (日本語字幕翻訳) |
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句点 。 |
文の終わりに全角で表記
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全角スペースまたは改行
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全角スペース
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読点
、 |
以下の場合に全角で表記:
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半角スペース
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半角スペース
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引用符の使用ルールの違いは下表のとおりです。どのスタイルガイドでも共通して、引用符はタイトルや強調を目的に使用されることが多いのが分かります。
しかし、何のタイトルであるかによって、使用する記号が異なっています。二重かぎ括弧や二重引用符など、言語に特有の引用符に関しても違いが見られます。特に、Netflixの二重引用符の使用方法は、映像を伴う動画翻訳ならではのルールだと分かります。
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JTF (実務翻訳) |
TED (日本語字幕翻訳) |
Netflix (日本語字幕翻訳) |
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かぎ括弧 「 」 |
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アルバム、本、映画、曲、番組などのタイトル
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二重かぎ括弧 『 』 |
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本、雑誌、記事、映画、番組、劇やミュージカル、音楽アルバム、コンピューターゲ―ムのタイトル
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―
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二重引用符
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引用や語句を強調する場合に使用(和文では多用しない)
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かぎ括弧と同様
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括弧の使用ルールの違いは下表のとおりです。翻訳文書、TEDやNetflixの字幕付き映像をご覧になったことのある方なら、納得のいく違いではないでしょうか。例えば、日本語版の文書では山括弧 〈 〉 を見ることが多いのではないかと思います。共通したところでは、特殊な場合を除いて、括弧は補足情報の訳出に使用されています。
しかし、動画翻訳では、単なる説明のみならず、音声情報や話の流れを理解するための補助的な工夫としても活用されています。
Netflixで特徴的なのは、SDH版(Subtitles for the Deaf and Hard of Hearing)と通常版の2種類の字幕が存在することです。SDHとは、耳の不自由な方向けの字幕のことです。似たものに、「クローズドキャプション(CC)」と呼ばれるものがあります。今回の比較対象ではありませんが、Apple TV Appの機能の説明によると、クローズドキャプションとは、会話以外のコミュニケーションも含めて文字に起こし、画面に表示するもののことです*。
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JTF (実務翻訳) |
TED (日本語字幕翻訳) |
Netflix (日本語字幕翻訳) |
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丸括弧 ( ) |
直前の内容を補足して、
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以下の内容が映像から識別できず、話の筋に関連する場合:
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大括弧 [ ] |
コンピューターの画面用語など の特殊な表記 |
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―
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山括弧 〈 〉 |
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―
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外国語の用語や対話
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* 参照:Apple TV App で映画やテレビ番組にアクセシビリティ機能が付いているか確認する, Apple Inc.(最終閲覧日2023年1月24日)
本記事では、実務翻訳および動画翻訳で使用される記号のルールについて、3種類のスタイルガイドを参照し、比較しました。記号編第一弾となる今回は、頻繫に使用される「句読点」、「引用符」、「括弧」の3つを取り上げました。
そして、同じ記号でも、動画翻訳特有の使用方法があることが分かりました。動画翻訳では、言語的なメッセージ以外にも、映像や音響と合わせて生み出されるメッセージを伝える必要があります。文字数など制限されたルールの中で、どのような方でもメッセージを受け取れるように、様々な工夫がされています。今回の記号の比較でも、その違いがはっきりと表れていると感じました。
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